嘘に焙り焙られる
よくある一般的な押入れのクローゼットではなく、6畳以上はある衣装部屋だ。

「あれ?直矢?だいたい片付いてる?」数個の段ボールが積み上げられ、さっぱりとした部屋が眼下に広がる。

フローリングのワックスが光る部屋へ踏み出したとたんに、ガチャとクローゼットの内鍵が閉まる音が背中に響く。

「直矢?」とまさか冗談でしょ?恐々と背後を振り返ろうとすると

「このままちょっとだけ聴いて」と

それがどのくらい続いたのか体感時間も定かではない。

じんわりと直矢の高めの体温に背後から包み込まれていた。

「震えてる?こんな状況では怖いよな。申し訳ない」

彼女さんへの罪悪感と抵抗する選択肢と直矢の行動を信用する気持ちが、桐子の中でせめぎ合っていた。

セフレではないから過度なスキンシップはしない約束は、どうした?

と思いつつも、直矢は深い深呼吸しているようだった。

「面と向かって言うと小っ恥ずかしいから、なんていうか今迄ありがとう。卒業するのはどちらかと言うと俺のほう」と直矢はポツリとつぶやき出す。

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