嘘に焙り焙られる
「正直都合の良い関係に甘えてた。
独り立ちしてる立派な女性が、何もプラスにならない束縛は続けたらいけないよな。
やっとピリオド向かえることが出来そうでホッとしてる。
もっと早く偽装の関係終わりにできていたら、よかったよな。
ごめん。辛かったよな。」
耳元でそう懺悔されるがまま、直矢の抱き寄せる力が強くなっていく。
振りほどくこともせず、うまく拒絶も示せない。
彼女さんにも同じことしているのかな。
私が一番悪い女だ。
「俺からの最後のお願いなんだけど、今夜添い寝してくれませんか?」
いつからジェットコースターに搭乗したのだろう。
奈落の底が目の前に見えているのに、何もできない。
文字通り時が止まった。
ハッとするとか、びっくりするとかそんな次元を遥かに超えている。
この後に及んでこの男は何を言い出すのかと思えば、緩急のある感情と思考と行動に、理解が追いつかない。
気付いた時には、桐子の左眼だけから涙が溢れ直矢の手の甲に伝っていた。
「大っ嫌い...」桐子の口は、か細い声でそう告げていた。
口では強がるくせに、直矢の腕を振りほどくこともせず、むしろ手を添えてしまっている。
「相変わらずあまのじゃくだな」と小気味好く微笑む直矢の表情が、やすやすと浮かぶ。
「お互い様でしょ」と桐子が身を挺して振り返ると
「本気で嫌ならもっと抵抗して」頰に手を添えられ陶器を撫でるかの如く直矢に涙を拭われた。
「うっさい」と直也に目線を合わせずにバシバシとその手をあしらう。