嘘に焙り焙られる
林檎の調べ唄
桐子が手伝うと動きを見せても、いいから大人しく待っていてと、
直矢が全ての朝食の準備を終わらせた。
「いただきます」
せめてもの罪滅ぼしなのか、異様に直矢が優しい。
こうやって世間話をしながら、極小のキッチンカウンターの隣り合わせで食べる朝食も御開きになるだろう。
「リンゴ食べる?」フルーツくらいは剥こうと思い、桐子は果物ナイフでさっくり剥こうとすると、
「いや、俺が剥く」
と直矢は上機嫌にリンゴを奪い取り滞りなく剥いている。
どの角度からみても絵になる構図は、様になっていた。
「まさか近々料理人の役でもするの?」と桐子は訊ねる。
「まだ情報解禁前だから、誰にも言うなよ。」と釘を刺されつつ、察せよという返答だ。
食べやすく切り終えたリンゴを陶器の光沢が眩しいお皿に並べ「召し上がれ」と桐子へ配膳する。
「ゴシップ記者から俺たち何て呼ばれてるか、そいえば桐子知ってた?」
「遠近法の暴力でしょ。田所サンがこの前教えてくれた。」リンゴを桐子が頬張る。
「皮肉なのか褒めてるか、というか両方の意味で使ってる。」神妙な表情でリンゴを直矢は齧る。