嘘に焙り焙られる
「今でもあのバンド好きだよ。」

「俺も」

たまらない間が生まれる。

ずっと隣にいてとも、いるとも言っていない。

笑って日が暮れればよかった。

ただそれだけで本当によかったのだ。

笑い方を忘れたときに救ってくれたのは、直矢だった。

広いとは言えない孤児院からはじまった不思議な関係性。

ずっと小さいときからの腐れ縁だ。

一般的な人に比べるとパーソナルスペースが、異様に近い。

そのお陰で間違われた発端になり、こうして演じる仲になった。

気を付けてはいるものの、ふとした瞬間に周囲から嬌声が漏れることある。

血の通った会話とどこか冷めてるところの共通部分。

お互いに少なからず、似ていた。

だからこそなんでも話すことができたと思う。

「今ままでありがとう。」直矢に面と向かって告げると、

「一つだけ忠告な。簡単に男の前では、涙を魅せるなよ。煽られてるのか試されてるのか、わからないときがある。」

「最近特に涙腺が緩くて、無意識に流れだすんだよね。気を付けてるつもり。」

あの他人の心を読むのが特異な直矢が、一瞬でも戸惑うのなら、私の価値はまだまだある。

と小さなガッツポーズを桐子は、脳内で再生させていた。

「そう、桐子は無意識に自分の感情を殺してる。」
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