嘘に焙り焙られる
別れの言葉は、呆気ないほど短くドライに終わる。

「本居さんにプレゼント渡しておいて」

「田所サンにこれ」

考えていることは、だいたい一緒だ。

間接的にマネージャーへ物々交換をすませ直矢は、見慣れた鍵を桐子に渡す。

「これも。寂しい部屋になったなあ」

金属音が掌の上で小さく鳴る。

直矢の荷物がほぼなくなり、生活感のない部屋を目の前にして、実感がやっとわいた気がする。

直矢の荷物は、あとダンボール二箱。

「持つよ」桐子は小さい方の箱を抱えこむ。

何を隠そう直矢の引越しは簡単だ。

2部屋先に移動させるだけだからだ。

「ありがとう、でも俺が持つよ」と直矢が荷物を奪いに来るが、

「いーえ、気にしないで」と大事に抱え込む。

贖罪の意識は、私にもある。

関係性は暗黒に近いグレーだろう。

そのどれもが、桐子を少なからず形成している一部であったからだ。
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