嘘に焙り焙られる
「こんにちはー。あれ?」

直矢が手慣れた様子でドアを静かに開けるものの返事がない。

「彼女さん、もしかして今日いない?」しばらくぶりに部屋を訪れるも、留守の様子。

「買い物行ったままだな」

と、直矢はメモ書きをクシャッと丸めていた。

「挨拶できなくて残念だなー。荷物ここでいい?」

「ああ、悪い」

玄関の一角の靴棚付近に桐子は鎮座させる。

これで本当に直矢との接点は今より薄れるだろう。



「俺がいないからって、この世界から死ぬなよ」

「お互いにね。長居も悪いし、帰るね」

直矢の返答を待たず、桐子は玄関から急ぎ足で去っていった。

まさか決心が揺らぎそうになるなんて、微塵も思っていなかったからだ。

私も知人に戻らないとって話なのに。

無機質な共用の廊下を渡り、そう離れていない自室に帰る。

荷物が減ったなあ。否が応でも自室の広さが、目立つようになった。

無駄に大きいベッドが、最大の荷物だけど、流石にこれは捨てられない。
< 42 / 59 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop