嘘に焙り焙られる
正臣が、渋った理由はすぐにわかった。

ここは新居となるマンションのエレベーター。

灰色の塗装で冷たい金属の箱の中。

ピリピリとした息が詰まりそうな空間に3人の人物がいる。

見るからに引越し作業中と丸わかりのいでたちの桐子とマネージャーの田所さん。

そして見慣れたもう一人の男性。

目深に帽子をかぶりオーラを完全に隠しきれていない仕事帰り風の恭兵がいた。

どうしてこんな重苦しい状況に!と言われても、交通事故みたいな逆らうことができない不意打ちは、予測できるわけがない。


明らかに田所さんから、隠し切れないミスったオーラを感じる。

ここまで珍しい田所さんが見えるのもレアな表情コンプリート!って揶揄いたい気持ちも実はある。

軽い会釈を交わすものの三者三様の思惑が重圧となって空気が重すぎる。

住居の階数が、どうやっても恭兵にバレてしまう。

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