嘘に焙り焙られる
「お手伝いしましょうか」と遠慮がちに恭兵は訊ねてくる。
「「結構です」」
剣幕な表情に強めの語気で、先にエレベーターを桐子と田所さんは降車する。
恭兵はですよねーという張り付けた笑顔で、エレベーターのドアがガシャリと閉まっていった。
恭兵の住まいは、さらに高層階なのだろう。
降りたエレベーターがさらに上へと昇っていく様を見送る。
田所さんは、恭兵が同じタワーマンションに住んでいることを知っていたのだろうか?
滅多に見せないどんよりした表情から察するに、知っていたわけではなさそうだ。
そんな一悶着があったが、引っ越し作業は滞りなく収束へ向かう。
大勝利の衣裳部屋にリビングは日当たりのいい角部屋だ。
譲り受けたベッドも悠々と座に着いていた。
リクエストに忠実で完璧な田所さんの仕事ぶりを感謝と敬意と共に褒めるのだけれども、田所さんは浮かない顔だ。
「恭兵と連絡取ってる?」
「最近は返信もあんまりしてないです」