嘘に焙り焙られる
「とーこ」

再び低い甘い声で呼ばれた上に、ニカッと極上の営業スマイルを見せたかと思えば、一気に引き寄せられた。


背筋が凍るという本当の意味を改めて実感した気分だ。

恭兵のまるく力強い三白眼に吸い込まれそうになる。

こたつの足があるおかげで完全には密着できない状況だけが、ただ一つ救いだった。




「ねえ、離してよ」ヒソヒソ声でなけなしの抵抗を試みる。

左手でより密着しようとする恭兵の胸板を制止するものの、その手さえ楽々と抑え込まれる。


しばらく思うままに抱きすくめられながら、恭兵の首元に頭を寄せて俯くように固まることしかできなかった。

シトラス系の香りが鼻先をくすぐり心の隙につけ込まれそうだ。

完全に逆らわなくなったからだろうか、柔らかくしなやかな骨張った指で髪を梳かれ、恭兵の体温が直接頭上から響く間隔に惑わされる。



「こっち向いて」耳元で囁かれる。


この一線を超えてしまうとただの友達に戻れないかもしれない。

この状況自体が、もはや手遅れかも。

そんな脳内の警告を無視するかのように、硬直する手足。

服の裾から這い上がる恭兵の裏腹な優しい手の感触。

感情を超えた涙が自然と桐子の頬を伝う。



額に温もりが落ち、体温が通う。このまま流されてしまいそう。



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