嘘に焙り焙られる
氷上決戦のように吹雪が吹き荒ぶ会話の行く末は、田所さんの辛勝で終わりを迎えたようだ。

「君このマンションの上層に住んでるでしょう。さあ帰った帰った。」と強引にエレベーターへ恭兵を押し込める。

孤独な独房のような長いエレベーターの中で、恭兵は俯き右手の握り拳を壁に押し当てていた。

ハードルは高くなる一方だ。

最初は火遊びの一環のつもりだった。

中々そんなチャンスは、転がり込むわけなくて、どれだけ、外堀からせめて少数飲みでも違和感ない状態を手に入れたと思ってんだ。

それをすべて壊したのは、誰でもない不甲斐ない欲望のままの自分だ。

そもそも身奇麗なうちにサヨナラができるわけないだろ。

直矢にはとっくに下心がばれていたけど、火遊び目的なら早めに消えろとか言われるし、わかっていたなら徹底的に無視してくれていたらよかった。

あいつら全員優しすぎる。

なんだかんだ、手も出さずただ桐子を眺めているだけの時間が長すぎた。

そうしたら、直矢の牽制なのか許可なのか本気なら奪えと言い、人を焚きつけた。

どうやっても手に入らないほうが燃える。

今やその土俵にさえ立てないのか。

なあ。その心は、単純な興味なのか愛なのかって?もう知るかよ。

こんなに桐子が好きなのに情けなく泣けるわけあるかよ。なあ。



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