嘘に焙り焙られる
薄暗いムーディーな空間がベタといえばベタなのだけど、淡々と水族館の撮影が過ぎていく。

つかの間の休憩時間が訪れフッと肩から力が抜ける。

館内は閉館後のほぼ貸し切り状態だ。

「ペンギン相関図?」これ見て見てと正臣が無邪気な大型犬のように呼んでいる。

「源氏物語も真っ青みたいな図だね。ペンギンも大変だ。」

「でもこれ俯瞰してずっと見てられる」

「わかるわかるドラマしかないよ」と桐子は相槌を打つ。

するとガラス越しに一羽のペンギンが、興味を示したように寄ってくる。

だいぶ人馴れをしているようで、猫じゃらしの要領で桐子の指先を目掛け嘴を振っていた。

猫と遊ぶ感覚に非常に近い。

そうこうしているとシャッター音が再開する。

「休憩終わってましたか?すいません。」と桐子が聞き返すと

「さっきと違う雰囲気で絵になりそうだから勝手に狙ってました、雑談しててもいいから続けて。」

カメラマンさんが言うものだから、実質休憩時間が終わっていく。
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