嘘に焙り焙られる
認めた形になってからというもの良いのか悪いのか、双方とも公認の仕事が増えてしまった。

世間様を欺きながら、モデルや少しばかりの俳優業をこなすようになったのだ。




そうこうしているうちにセキュリティばっちりのマンションの一室を事務所が用意立てしてくれ、程なくして直矢とのルームシェアが始まった。

もちろん世間は完全に同棲だ、結婚秒読みだと信じ込んでいる。



これでいて男女の仲ではない。信じてもらえないと思うが、直矢とはまるっきりない。

こちらの関係が、むしろ特殊な友達だとはっきり言えてしまえる。

美容用品の会話から、健康に良さそうな食材の話、本命へのプレゼントまで端から聞いたらまるで女友達の会話だ。

ビジュアルケアは抜かりないプロ意識をお互いが持っている。

その点に関しては、尊敬の念を強く抱く。



恭兵を強引に部屋から排除した田所マネージャーは、頭を抱えていた。

「田所さん、ごめんなさい。心許せる友人達の宅飲みで、すっかり安心しきった。私の落ち度です。」

「どこから秘密が漏れるのかわからないし、もう仮面夫婦でもいいから結婚して貰った方が…」とマネージャーは日和り出す始末。



「「絶対にないです。」」両者強く否定した。

そこだけは、プライベートを守りたいし、守らせてあげたい。

と桐子も直矢も思いは共通していたからだ。



「田所さん。直矢の彼女さんが、同じフロアの2部屋違いに住んでること知ってるよね?」と桐子は物申す。

「悪かった。」「生活を強いてるのは事務所だということは、重々承知している。困ったな。」と頭を下げ本格的に困りだす田所さんがある。

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