恋デート 【絶対にキスをする】
凌空はあっけにとられた顔で立ち尽くす。
「はあ?だからなんでそんなこと思って、」
「だって」
だって、席。
それだけ言ってあとは嗚咽に押し流されて言葉にならなくなる。
そして何一つ事態が収拾しないままゴンドラは地上に到着してしまう。
凌空はまるでバネ仕掛けのように勢いよく出入り口の前に立つと、扉を開けた係員さんに必死に訴えだした。
「すんません!!マジすんません!!この子ゴンドラの中でコンタクト失くしてめっちゃ困ってるんでもう一周して探させてください、ないとマジ困るんで!!これ、乗車料倍払います!おつりいりません!!ほんとすんませんッ!!」
凌空は係員さんがビビるくらいの剣幕でまくしたてて、お財布をひっくり返してお札も小銭も中身を全部押し付ける。
無理矢理お金を受け取らされた係員さんは明らかにすごい困惑していたけど、あたしたちの乗っているゴンドラがもう降りられないくらい高く空中へと送り出されていくと、諦めて手を伸ばしてゴンドラに鍵を掛けて見送ってくれた。
「美咲先輩」
凌空はほっとしたように息を吐くと席に座った。またあたしの正面に、だ。
「先輩に泣かれるとか、俺ホント今すげ動揺しまくってて余裕ないんスけど。でもちゃんと聞きます。だから、ちゃんと、話しましょ?俺の何がいけなかったんスか?」
「………いけなくなんてない」
じゃあなんで、とも言いたげな顔で凌空はあたしを見詰めてくる。
「だって……でも凌空……あたしと付き合い始めてから変わったよね……?」
思い当たることがありすぎるからなのだろう、凌空はぐっと黙り込む。