repeat
第19話
10月31日(月)PM1:00。
昼ご飯を食べ終えた真は生徒会室に向かう。生徒会室の前に来ると、ドアを開ける前から室内から晶の大きな声がしていた。室内に入ると電話を掛けながらジュースを飲んでいる晶の姿が目に入り。晶は真をチラっと見ただけで会話を続ける。
「だから、何度も言ってんじゃん。あたしは放課後生徒会活動で忙しいんだから。分かった? 今からすぐ行けば今日中になんとか調べれるでしょ? よろしく、じゃ」
真は晶の口調から電話の相手が容易に想像がつく。
「またお兄さんに何か頼んでたのか?」
「そ、暇人で飲んだくれのくせに、あたしの依頼を断ろうなんざ十万年早いっつーの」
晶はジュースを飲みながら文句を並べる。
「で、昼休みになったけど、少しは頭良くなった?」
晶はわざと頭の良し悪しで問う。
「良くはなってないかもしれないが、このリピートを解決させることに全力を尽くすことにしたよ」
「good」
晶は人差し指を真に向けて正解というふうなジェスチャーを見せる。その姿に真は少しほほ笑んでから自分の座席に座る。
「僕なりに今まで考えてみたんだが、今回のリピートの大きな疑問点は、晶に起きなくて僕にだけ起きているという点だ。ゆえに僕と晶の行動の差異を追求して行くのが定石だと思う」
「異議なし。少しは冷静になれたみたいだね」
「現状に落胆してみても何にも変わらないからな。解決まで何日かかるか分からないがそれに立ち向かうまでさ」
「その通り。落ち込んでいる暇があるなら頭使えって感じ。何が起ころうと最終的には事実に向き合うときがくるんだからね」
「ああ、小林さんだってこのリピートに一人立ち向かってたのに、僕が落ち込んでいたらカッコつかないしな。じゃあ、早速昨日までのお互いの主な行動を紙に書きながら見直してみるとよう。その差異から何か分かる可能性がある」
真は自分の机からノートを取り出し書き出す準備をし始める。
「まずは昨日から検証してみよう。そこから一日ずつ過去に溯って見直すのが無駄がないだろう」
「だね。その前にあたしから質問。茶屋咲駅であたしと別れた後、何か変わったことはなかった?」
「いや、何もなかったな。だから検証すべき点と言えば、桜の木の移転後以前だろう」
「ふむ」
「おおまかだが僕の行動パターンをまず書くよ」
【10月30日の行動パターン:真】
・池田駅前のビジネスホテルにて起床後、バスで槍方村に向かう
・バス停で小林さんに会い、自宅待機等の晶からの伝言を伝える
・桜の木の移転を終始観察する
・植樹完了間際に晶と馬場と合流
・植樹完了後、駅前にて小林さんと合流
「この後はほとんど三人で一緒にいたから検証の必要はないだろう」
「多分ね。じゃ、今度はあたしの番」
【10月30日の行動パターン:晶】
・事務所で真からの連絡を受ける。
・おっちゃんを呼び出す電話をし、八雲駅前で落ち合う
・携帯電話のログから割り出した漫画喫茶に聞き込み調査(やっつけ仕事)当然メールを送った人物(兄)は特定できず、池田町の作業現場へ向かうことにする
・真と合流。以下同じ
「とまあ、こんな感じ。ちなみに兄さんは今回の件に全くノータッチだから情報が漏れることはない」
どこからともなく取り出したキットカットを片手に晶は断言する。
「これから判断するに、僕と晶との大きな違いは、日曜日に池田町にいた時間。もっと言えば、桜の木を眺めていた時間とも言い換えることができる。僕は朝晶に連絡を入れてから作業が完了するまでの間、ずっと桜の木を見ていたからな」
「それじゃあ、ずっと見守ってくれたお礼に桜の木が真にリピートをプレゼントしたってことになるね。正に恩を仇で返すような結果になる訳だけど」
「結果だけ見るとな。だが、小林さんのリピートが止まったということは、小林さんのリピートの原因が桜の木にあったということの証拠であり、今僕の身に起こっているリピートもあの桜の木が原因であるという可能性の高さを証明している。だから、僕のリピートを解決させるのにはやはり桜の木をもっと深く調べる必要があるってことになる。ただ、一つ気掛かりがあるとするなら、自宅待機していたはずの小林さんが、当日何かしらの変わった動きをしていたとしたのなら、また状況は変わってくるということだな」
「その点なら大丈夫。昼休みまでに直接彩花から聞いといたから。日曜日はあたしの指示通りに実家から全く動いてなかったって」
「なるほど。ならやっぱり解決した理由は桜の木の移転と踏んで間違いないな」
「リピートが感染病みたいに他人に移るような性質で、移すことによって治るものなら話は別だけど、一番身近にいた家族に移ってないことから感染病案はまずない。ゆえに、今回のリピート原因もあの桜ということでファイナルアンサー」
晶はキットカットをポリポリかじりながら、いつもの人差し指立てポーズをとる。
「なら直接調べに行くのが望ましいな。早速今から行くか?」
「優等生の真からそんなセリフが出るとは思わなかった。学校は?」
「サボる。同じ月曜日をもう一回するのもダルいしな」
「言えてる。でも今から行って帰ってじゃ時間的に帰って来れないっしょ? だから、さっき兄さんに電話して桜の木について調べてもらうように頼んどいた」
「ってことは、僕がここまで推理することを既に先読みしていたということだな?」
呆れた表情で質問する真を晶は得意のキラースマイルで応える。
「なら最初からそう言えよ。検証する必要なんてなかったんだから」
「ノンノンノン」
晶は人差し指を左右に降って否定する。
「桜の木の調査はリピート原因の最重要ポイントだから、真との検証いかんに関わらずガチだったの。さっきした検証はそれ以外のリピート要素の可能性を知るためにしたようなもんなのよ。だから、日曜日だけじゃなく、土曜日の検証も確実性を期するに必要だと思う」
「そう言われれば納得するが、相変わらず隙のない推理をするな。感心するよ」
「リピート解決後の報酬を期待してるから本気出してる。よろしく~」
晶は最後の一本を食べながらニヤニヤしている。その裏のある笑顔に真の表情は引きつっていた。