repeat
第8話
10月28日(金)PM5:00。
昨日と同じカプチーノを注文し真は一人で席に座っている。この店は真好みの雰囲気をしており、客の年齢層も高く落ち着いて話すのには申し分がない。
オーナーが手作りでコーヒー豆を挽いているのもポイントが高いが、時代に流されないレイアウトや雰囲気作りがこの店のセールスポイントに違いない。店名の『クラシカル』を示すように、店内にはショパンの名曲が流れている。そこへ店内のBGMを害さないくらい、ささやかな鈴の音とともに店の扉が開く。入ってきた人物は真の正面に座る。
「す、すいません。おまたせしました」
そこには少し嬉しそうな表情の彩花がいる。走って来たのか息が荒い。
「そんなに急いで来なくてもよかったのに。リピートしなかったのは朝一の電話でもう分かってたんだし」
「はい、でも何か嬉しくて」
「今までが厳しい状況だったからその喜び様は仕方ないか。でも、リピートが完全に解決された訳じゃない。これからがスタートだ」
真は真剣な表情で言う。その言葉に彩花も頷く。
「リピートの協力者を得られたことは言わば第一段階。次の段階として、リピートの原因を追及し完全な解決を計らなければならない」
彩花は素直に頷く。
「しかし、ここで敢えて内容6の検証を掘り下げて考えたい思う」
「えっ? どうしてですか?」
「リピートしなかった理由が、本当に男性に相談したからかどうかを確定できれば今後の作戦を立てやすい。小林さんだって今後の僕の協力が確定されれば安心できるはずだよ」
「そう言われれば、そうですね」
「そこで、検証を兼ねて今から僕と一緒に晶と会い、リピートの相談を持ち掛けてもらいたい。これでもし10月28日の朝にリピートした場合、男性への相談がリピート回避の条件だとほぼ断定できるからね」
「分かりました。私は真さんを信じて行動するのみです」
「うん。じゃあ、今から電話して呼び出すよ。晶はこういう不思議系の話には目がないからすっ飛んで来るだろう」
真は苦笑いをしながら晶の緊急用番組にコールをした――――
――二十分後、来店するなり注文したイチゴショート三つをフォークでつつきながら、晶は『リピートについて』というタイトルの用紙をじっくり黙読している。その様子を隣りで見ている彩花はちょっと引いているようだ。一通り読み終えるとフォークをペン回しの要領で回しながら真に話かけてくる。
「つまり、あたしを使って検証しようって訳?」
「そう、昨日リピートしなかった原因をここではっきりさせときたい」
「ふむ……」
晶は一言つぶやいたのち、フォークをくるくる回しながら考えている。真も彩花も晶が口を開くのを静かに見守る。三つあったイチゴショートはあっという間に一つになっている。しばらくフォークを回していたがその指がピタッと止まり、晶は彩花を見つめる。
「な、何?」
「ね、小林さん。ここのオススメケーキって何?」
すっとんきょうな質問に彩花は戸惑う。
「えっ、ちょっと分からない。ここにはあまり来ないし」
「んー、じゃあ悪いけど店の人に聞いて、そのオススメケーキを一つ注文してきてもらえる?」
「分かったわ」
彩花は少し戸惑いながらもカウンターの方に歩いて行く。席から少し離れたのを確認すると晶は真に話しかけてくる。
「小林が戻るまでに時間ないから端的に聞くけど、ここに書かれてあるあたしからのメッセージの裏、気付けてる?」
「気付いてるよ。だから呼んだんだ。リピートした明日が勝負、だろ? 明日以降、小林さんに気付かれないよう報告を入れる。用紙に『一人で解決するように』って書いてたが、晶の性格上あり得ないから反対の意味だとすぐ気付いたよ」
「Good! じゃあ任せるから」
「ああ」
晶はニヤリとしてイチゴショートのイチゴを食べる。ちょうどそこへケーキを持った彩花が戻って来る。
「おまたせ晶。この生チョコとメロンのトルテがオススメらしいよ」
「わっ、生チョコ大好き! ありがと。小林さんも食べればいいのに。真のおごりだし」
「おぃ」
「あたしを検証のために使おうってんだから当然でしょ? 文句ある?」
「くっ……」
(コイツ、リピートしたらチャラになるんだからいいじゃん、って目をしてやがる……)
「分かったよ『今日のところ』は、おごるよ」
「当然」
晶はおごりがさも当たり前のようにふるまい、もくもくとケーキを口に運ぶ。彩花はその姿を呆然と眺めていた。