クールな御曹司にさらわれました






目的地である帝東病院に到着したのは昼過ぎだった。
都心部の病院に向かうために、ヘリが降りたのが誰もが知っている大企業の屋上ヘリポートだったことは驚いたけれど、いちいち突っ込まない。そういう場合じゃない。

とにかくお母さんの容体だ。
さすがに尊さんはずっと硬い表情をし、ほとんど喋らなかった。

ロビーに入ると部下らしきスーツの男性が、案内をしてくれる。特別室は新築されたばかりの別棟にあり、病室前ではサラさんが待っていた。

「中です。お待ちです」

待っているということは、意識はあるということかしら。
私たちが足早に病室に入ると、そこには思いもよらない光景が待っていた。

「やっときた!」

中央の大きなベッドに座り、腕組みをしているのは、お母さんだ。
その横に立っているのは、尊さんのお父さんとうちの父。父親ふたりは困り顔、そしてお母さんはきりっと眉を吊り上げ、私たちを見ている。

「母さん、具合はどうなんだ?」

尊さんが困惑気味な声で問う。本当だよ、座って腕組みしてられる状況なの?
お母さんは当然と言わんばかりに答えた。

「そんなものは嘘です!私、ここ数年健康だもん!」

だもん……ってお母さん。今、とんでもないことをさらっと。
うそ?嘘だったの?
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