クールな御曹司にさらわれました
呆気にとられる私たちを見つめて、お母さんは言い放つ。

「尊、いい大人が好きな女の子を追いかけて仕事を放り出して……何事ですか!」

「障りはないようにしてあります」

「そういう問題じゃないでしょう?好きな女の子に逃げられたのはあなたの甲斐性がないせいだし、そんなことで慌てふためいて仕事が手につかなくなるなんて情けないわ!」

お母さんはつらつらと話す。尊さんも普段ならもっと強い言葉で出るだろうに、実母相手という点と、痛いところを突かれているという点で言葉が出てこない。

「企業のトップにたつ人間としての器量を疑います。おおいに反省しなさい」

頭を下げ、押し黙った尊さんから、お母さんが私の方へ視線を移動させる。

「妙さん」

「はい」

緊張で声が震えた。お母さん、すごく怒っているみたいだ。

しかし、私の心配をよそにお母さんの声音はするすると優しく変化した。

「あなたの権利は守ります。逃げずに尊に言いたいことは全部言って。あなたがいなくなって、うちの馬鹿息子はたくさんの部下を巻き込んで大騒ぎしたのよ」

私が起こした騒動は尊さんへの復讐という幼いものだったけれど、これほど多くの人たちを巻き込んだものだった。
途端に情けなさで胸がいっぱいになり、唇を噛みしめる。
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