クールな御曹司にさらわれました
「前も言ったけれど、あなたが嫌なら振っちゃっていいから」

そう言って、お母さんはさっぱりと笑った。

お母さんは私たちのくだらない追いかけっこを終わらせるために、こんな芝居を打ったのだろう。私も尊さんも、お母さんの前じゃ本当にただの子どもだ。
自分の気持ちを口にするなんて、小学生だってできるのに。

「さて、私は退院するわね。お父さん、玄之丞さん、荷物をお願いね」

お母さんは立ち上がり、うーんと伸びをした。

「少し、ふたりで話してらっしゃい」

私たちは頭を下げて、お母さんたちより先に病室を出た。外にはすでにサラさんたちはいない。
さて、どうしたものかしら。話し合うって言っても……。

「タマ、来い」

尊さんが私に言うけれど、その口調は遠慮がちだ。私は頷き、後に従った。



病院の屋上には誰もいなかった。本来、患者は出入りを禁止されているのかもしれない。空の物干し竿が何本か並んでいるので、洗濯ものを干す職員は出入りできるのだろう。鍵がかかっていないのはそういうわけだろうか。

「お母さん、無事でよかったですね」

私は尊さんの背中に声をかける。

「まったくだ。振り回された……」

「でも、迷惑をかけたのは私たちですし」

「そうだな。こんなにお膳だてをしてもらったからには……ケリをつけるべきだ」

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