クールな御曹司にさらわれました
「気づいたら告白していた。好かれないかもしれないとは考えなかったんだ。おかしいだろう」

「自信過剰ですよ」

「まったくだ。俺の誘いを断った女はタマが初であると言っておこう。ともかく、俺なりに好かれようと必死だった。タマが距離を詰めようと努力してくれることが嬉しかった。何度か、本気で押し倒してみようかと思ったんだぞ。だが、できなかった。おまえに嫌われるのが怖かった」

それなら、なんで……。問い詰めたくなる気持ちを堪えて、私は静かに問う。

「なんで強引に婚約パーティーなんか……セッティングしたんですか?」

「焦っていた、すまない」

「待ってほしいって言ったのに」

「来月から半年、マヒドの国へ行くことが決まっていた」

寝耳に水だ。尊さんがマヒドさんの国……中東の産油国に?

「なんの約束もしないまま離れたくなかった。言い方は悪いが……その前に既成事実を作りたかった」

さすがに『既成事実』という単語にぶほっと吹き出してしまう私。そんな私をじろりと尊さんが睨んだ。

「言い方は悪いと言っただろう。なにも手籠めにしようとは思っていない」

「それは、そーですけどね。既成事実って、尊さん」

笑いを噛み殺してぷるぷる震える私に、いっそう冷たい視線がそそがれる。
たぶん、『どうしてこんな間抜けヅラで笑いを堪えている失礼な女を好きになってしまったんだろう』とか考えてるんだろうな。
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