クールな御曹司にさらわれました
人の流れが一度途切れる。おかしい、尊さんはこの便に乗ってきたはずなのに。

不安になって、背伸びする私の目には思いもかけない恋人の姿が映った。

そこに現れたのは間違いなく尊さん。
しかし、そのいでたちはいつものばっちりスーツで決めたイケメン社長の姿ではなかった。

Tシャツにジーンズ、髪はぼさぼさで顎に無精ひげ。いつもの洗練された尊さんじゃない!
その尊さんが手に真っ赤なバラの花束を持って、私に向かって歩いてくる!

もう、私は呆気にとられちゃって言葉が出ない。
どーしちゃったの?尊さん!何があったの?

「タマ!」

次の瞬間、尊さんが大声で私を呼んだ。そうしたら、驚きも疑問の言葉も吹っ飛んでしまい、私はその足で走り出していた。尊さんに向かってジャンプぎみに飛びつくと、尊さんはバラごと私をぎゅうっと抱きとめてくれた。

「会いたかったぞ!」

「私も!っていうか、イメチェンしすぎですよ~!」

思わず笑ってしまった私を降ろし、尊さんが言い訳を始める。間近で見た尊さんはいよいよもってぼろぼろで颯爽とした感じもなく、最高に御曹司っぽくない。

「ここ半年はとんでもなく大変だった。マヒドの会社はかなり郊外でな。毎日荒涼とした大地と砂漠の中にいると、スーツが無用だとわかったぞ。信じないかもしれないが、俺は途中からオイルコンビナートのパート社員じゃないかというくらい昼夜無く働いた」
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