クールな御曹司にさらわれました
「めちゃくちゃ忙しかったんですね!」

「髭を剃る暇もないくらいだ。……そのあたりは全部、メシを食いながら聞かせてやろうじゃないか」

この格好じゃ、ドレスコードのあるレストランやホテルのラウンジはとても無理だろうな。
サラさんと加茂さんと、ファミレスかラーメンか……。おうちに帰って、羽前家ディナーだっていい。

ふと、尊さんが思いついたように自分の姿を見直す。

「すまん。久し振りの再会なのに、この格好じゃムードがなかったな。バラの花は手配できたんだが」

ちょっと気弱な言い訳に、私は笑ってしまう。

「いっつも完璧超人御曹司って感じだったんで、逆に安心しました。レアな姿が見られて嬉しいです」

「そうか、それはよかった。……タマは少し丸くなった」

「恋人に言う言葉!?」

「いや、丸々としていて可愛いぞ。とくに頬っぺたがな」

そう言って尊さんは私の頬にキスをした。驚いて見上げようとすると、今度は唇を奪われる。ちゅっと触れるだけの可愛いキスは、完全に不意打ちだ。

「尊さん~!」

私は嬉しいやら恥ずかしいやらで赤くなりつつ、尊さんの無精ひげだらけの頬をぎゅーっとつねった。
以前、しょっちゅう私がやられたように。
< 192 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop