此処ガ私ノ還ル場所
ハカナイユメ
ずっと暗闇の中にいた。いや、暗闇の中にいると思い込んでたのかもしれない。だけどいつも隣にはあの人がいて、微笑んでた。本を1ページずつ破る。後戻りできないように。もう迷わない。

今年の春は遅かった。三月になっても白い粉雪が街を飾る。寒い春はいつまで続く?そんな心に雪は積もって行く。
「なんで生きてるんだろ、人は。」
病室から掠れた女の声が聞こえる。時にため息が交じる静寂の夜。
「分からない。」
男は窓から外を見ながら答えた。真実をオブラートに包む事は時として大事なことだったりする。それもまた、人。
「ただ、言えるのは光はいつも心にあるから今は自分を信じればいいよ。」
頷く女。
「頑張るね。」

翌日には雪は止み、太陽は桜を照らす。花冷えもまた風流。
「気温差13℃か……。風邪引いちまう。そうだろ、楓。」
異常気象は猛威を奮う。人の敵は人。自然の敵は自然。例外もあり。それが生命の神秘。こうして地球は回っている。
「そうだね。布団要らないくらい暑いよ。」
微笑みは空気をも変える。人というモノは実に不思議だ。
「なぁ、楓。」
手には一枚の葉書。にやける男。気色悪い。
「なに?紅太」
「お前が書いた小説、一次審査通ったそうだぞ。」
嬉しそうにガッツポーズをしてみせた。楓も満面の笑みで答える。
「じゃあリハビリもっと頑張らなくちゃ」
紅太は手をさしのべる。楓もそれに答えるように手を出した。
「俺も就職頑張るからお前も頑張れ。」
握手して互いの想いを通じあった。

面会時間が終わり、紅太は楓に別れを告げ、帰路につく。月は満月。街の光も静まり空には星が煌めく。その時強い風が吹き、桜の花びらが舞った。桜花乱舞……。一年前の記憶が蘇る。
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