此処ガ私ノ還ル場所
一年前―。楓と紅太は高等学校を卒業し、新たな線路を敷く。紅太には夢もなかったから近くのパチンコ屋でアルバイトをしていた。就職しろ、と親からは言われたが聞く耳すら持たなかった。楓は近くの銀行で就職を決めていた。しかし楓は中学時代からの夢、作家になることを夢見ていた。そんな二人は家が近所だったため小学校時代から家族ぐるみの付き合いであった。二人の仲は良く、自他共に認める無二の親友。それは卒業してからも変わらないモノであった。
事態は急激に進む。三月の末。まだ仕事には行き始めてない気持ちの高揚としていたときである。楓は紅太に誘われて遊びに行く約束をしていた。待ち合わせは公園の時計台の下。刻々と待ち合わせ時間は迫る。楓は家の用事を済ませ急いで家を出る。
「もう、これじゃあ遅刻じゃない。」
全力疾走する。家から待ち合わせ場所までは歩いて15分程度。全力でいけば5分切れるだろう。とは言っても既に5分、時間は過ぎているので遅刻は遅刻であった。
一方その頃、紅太は遅刻魔の名が付いていたのだが今日に限っては5分前についていた。
「楓のヤツ、ビックリすんだろうな。」
ニヤリと笑う。気色悪い。
すると道路の向こうから楓が見えた。手を振る紅太。楓も遠くの方から手を振る。紅太は楓の方に歩き始めた。一方、楓は信号が青になったためそのままのスピードで突き進む。

……。

楓が気付いたときには見知らぬ、天井。白い世界。
「私、死んだの?」
錯覚は時として恐怖。見えない恐怖。見えてる恐怖。それは白い世界と共に……。戒めは人の責務。過ちは人の性。優しさは人の造りしモノ。なにもかもが白いキャンバスに描かれた人の理想。死というモノへの恐怖は永遠の追憶。

あのあと青信号で渡ろうとした楓は四トラックにひかれた。紅太はすぐさま心配蘇生法をやり、無事救急車に引き渡された。一命は取り留めたものの両足複雑骨折、左手も複雑骨折で、頭を強打。一時的な記憶障害に言語障害が起きていた。紅太は青ざめた。それから半年は記憶を呼び戻す治療に専念した。その甲斐はあり、記憶障害という壁は乗り越える。人の強さを思い知った。しかし体は動かず、言葉もまともに話せない状態が続いてしまうが紅太は諦めなかった。楓もその想いを真摯に受け、リハビリに精を燃やした。

< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop