此処ガ私ノ還ル場所
現在に至る。未だに治ることのない壁。越えられないことはない壁。だけど諦めはしない。何故ならお互いの想いが通じ合っているから。諦められない夢があるから。生きること、死ぬこと、なにもかもが偽りに固められてるから。だから二人は前に進む。
「まだまだこれからだ。」
桜の花びらを握りしめ呟く。ゆっくりと桜並木を歩いていった。

「明日から足のリハビリ始めようか。」
白衣に見にまとった人。医者。楓の担当医だ。
「はい。」
楓は微笑んだ。窓から見える桜から舞った花びらを握りしめ、心のドアを叩く。約束を果たすとき。みんなの優しさに答えるため、前に進むことを誓う。
「言葉の方は少しずつではあるが治っているよ。これも毎日来てくれる彼氏のおかげかな。」
担当医はニヤリと笑う。答えるように楓は笑う。そう言い残して担当医は病室を後にする。楓は窓から空に浮かぶ満月を見つめる。
「紅太も見てるのかな。」

それから明くる日も明くる日もお互いの目標に向かって歩む。楓はリハビリ、紅太は就職活動。躓いても立ち上がる。それはお互いの魂の還る場所を求めて……。

四月、病室には花束が沢山飾られている。
「楓、退院おめでとう。」
お互いの両親が病室に集まる。
「紅太君、ありがとね。君がいてくれたから楓は希望を捨てなかった。ありがとう。」
楓の父は涙脆い。鼻を啜りながら声にだす。
「まだこれからです。完治したわけじゃあないしまだまだこれからも世話します。」
紅太はハンカチを差し出す。その時楓と目が合った。微笑み、微笑み返した。わかっていたのかもしれない。これから起こることが。
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