冬の訪れ[短編]
冬の訪れ
 雪が街中に降り始めた。白く、ふわりとした粉雪だった。

 その雪を見て、幸せそうなカップルが耳元で囁き、上空を見上げていた。

 雪は無限に存在するかのように地上に舞い降りてきていた。

 恭子はそんな雪を見ながら、手を擦り合わせた。こういうときに限って手袋を忘れてしまい、運がない。

 口から息を吐くと、息が白く見える。その息は、寒空の中、むき出しになっている恭子の手を包み込んだ。

 だが、その息も一瞬恭子の手に温もりをもたらしたものの、直ぐに消えてしまった。

「来ないな」

 恭子は腕にはめた時計を見た。時刻は一時半を示していた。

 本当ならここで一時に待ち合わせをして、今頃は近くの喫茶店でコーヒーでも飲んでいるはずだった。

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