冬の訪れ[短編]
 そのとき、恭子の耳に明るい女性の声が届いた。クリスマス前ということもあり、カップルがやけに多い。

 恭子はやるせない思いを抱きながらもそのカップルに目を向けた。本当は軽い気持ちのはずだった。

 先ほどの幸せそうなカップルを見たときのように、ちらっと見て目を逸らすつもりだった。

 だが、恭子の視線はそのカップルに釘付けになる。

 恭子の視線の先には黒い膝下までのコートを着た男に、彼より頭二つ分ほど背丈が小さく、黒とは対照的な白いコートを着た女性がいた。

 彼女は今日のために念入りにセットしたのだろうか。いつもはストレートの髪が今日は柔らかい曲線を描いていた。

「亮」

 恭子はその名前を呼ぶと、唇を噛み締めた。小さな声で相手に聞こえたか分からない。もしかすると視線を感じたのかもしれない。

 カップルのうち、男が恭子に視線を向けた。

 男の切れ長の瞳が、一瞬見開かれ、直ぐに恭子から目を逸らした。何か見たくないものを見てしまった。そんな気持ちが伝わってきた。

 その男の視線に気が付いたのか、女も恭子に目を向けた。

 その女の子は男とは対照的に恭子に笑顔で微笑みかけた。
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