ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」

玄関へ行くと、彼が待っていて、

「…おいで」

と、手が繋がれた。

恥ずかしい……手を繋いで家に入るのなんて、照れくさい以外の何物でもない。

「…あの、手は…繋がないでも……」

真っ赤になって、手を引っ込めようとすると、

「……だったら、肩を抱こうか?」

と、肩に手をまわされた。

……違う、そうじゃない。もうどうして 、この人ってば、よけいに恥ずかしがらせるの?

やっぱ、アレなの?……女たらし。それも、身につけた気質とかじゃなくて、染みついてるような生まれながらの"たらし"

……ダメかも、それって到底太刀打ちなんかできないかも……。

そばに抱き寄せられると、甘ったるいムスクの匂いがして、それだけでもくらくらしそうになる。

……こんないい男が、私を好きでいてくれるなんて、本当なんだろうか?

今でも、ふと夢なんじゃないかとまで思える。

……今日のスーツも、めちゃくちゃ決まってるし……グレイッシュグリーンとでもいうのか、灰味がかった淡い黄緑色に、銀ねず色のネクタイが嵌って、相変わらずのさすがのかっこよさで……。



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