ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」
「報酬ははずむから、頼むよ」
言うのに、
「報酬とかじゃなく、展開が急すぎて迷ってる感じで……」
ためらいがちに、コーヒーカップを両手で包む。
「そろそろ仕事のことを本気で考えると言ってただろ? だったら、受けるべきじゃないのか。
チャンスは即決で手に入れなければ、逃げていくからな」
大企業の会長らしいその言葉に、うっと言葉に詰まる。
今まで、こんな風に二の足を踏んできたから、何もものにできないままで、いつの間にか30歳も過ぎてしまったんだと思う……。
答えを待ってじっと見つめる瞳に、
「……それでは、明日からよろしくお願いします」
覚悟を決めて、頭を下げた。
「交渉成立だな。では、明日の朝9時に私の家まで来てくれるか?」
言って、手帳を出して住所を書きつけると、破いて渡して、
「もしわからないことがあったら、その番号に連絡してくれ」
と、住所の下の携帯番号を指差した。
「…あ、はい…」
頷くと、
「…では、頼んだよ。明日から、よろしくな」
クールにも笑って、伝票を取ると、テーブルを立った。
「あの、いろいろすいません! ありがとうございました」
もう一度おじぎをすると、
「そんなに恐縮しないでくれ。年もたいして変わらないんだから」
話して、軽く手を振ると、店を後にしたーー。