ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」

「そうなんですね…」

「ああ…妻の忘れ形見の息子に、会社をいい形で譲ってやりたくて、今まで後ろを振り返ってる暇もなかった……」

この人は、どんな思いで仕事に尽くしてきたんだろうと思う。

「……私にとっては、あっという間の10年だったんだ」

車が会社に近づいて、

「つまらない話をして、すまなかったな…」

と、軽く頭を下げられて、

「いえ、そんなことは…」

謝ったりなんかしないでほしいと感じる。

「……こんな話を、誰かにしたことなどなかったんだが……」

そう口にするのに、自分には話してくれたことがふと嬉しくも感じられるみたいだった……。



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