ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」
席に着いてーー、
"紳士服HASUMI"って言えば、全県にお店がある有名企業だよね……。
その、会長って……?
目の前の男の人をまじまじと見る。
「…うん? どうかしたかい? 」
エスプレッソのコーヒーカップを優雅に指先でつまんで、一口を飲む。
「……本当に、あの会社の会長なんですか…?」
信じられないような思いで、見つめる。
「ああ、何か問題でも? ところで、君は名刺は持っていないのかな?」
「…あ、ああ…すいません。……自己紹介が、後になってしまいまして……」
カバンの奥を探って、あんまり出すこともない名刺をおずおずと差し出す。
「鈴森 佐織さんか。……フリーのイラストレーターなんだね…」
言われて、
こんな大企業の会長を前にして、自分はフリーだなんてつくづく恥ずかしすぎると思う。
「…全然たいしたことなんかない、ただのイラスト描きなんで……」
言いながら、うつむいてコーヒーをすする。