ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」
スケッチブックを閉じて、「はい…」と、立ち上がると、
「…ああ、この前の絵だが、広報誌に載せることが決まったから」
そう話されて、
「…え? あのラフをですか?」
と、聞き返す。
「ああ、あのラフな感じがいいんだよ。広報部長にも見せたが、そっくりだと笑ってたよ」
あんな雑に描いたのを……と、ちょっと恥ずかしくもなる。
「また描いてたんだろう? それも見せてほしい」
出版社では、さんざ貶されたのにと、蓮見会長みたいな人が自分のイラストをそこまで買ってくれることが、信じられなくもなってくる。
こないだカフェに行ったのと同じホテルの中の、鉄板焼きのレストランに連れて来られて、
「……こんな高級そうなお店、申し訳ないです…」
恐縮するのに、
「掲載の返礼だよ。もちろん報酬もちゃんと支払うが、私の気持ちだからね」
穏やかで紳士的な笑みを返された。
……目の前の鉄板で焼いた海鮮や野菜などを口にしながら、
「少し、ワインでも飲まないか?」
訊かれて、
「お車の運転がありますから」
答えると、
「……車は、無理に乗って帰らなくてもいいから……少し付き合ってくれないか?」
そんな風にも言われて、断れなくもなる。