ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」
美味しい料理に、お酒も進むように感じて、いつになく会話も弾んだーー。
「……あんな大きな会社を、一代で立ち上げられるなんて、凄いですよね…」
「……私は、ただ自分が欲しいと思ったものを、作ってきただけだからな…」
「……欲しいと思ったものですか」
……紳士服HASUMIは、ダーク系ばかりなビジネススーツに、多種多様なカラーを取り入れることで、独自路線を切り開いて急成長をしてきた会社だった。
「ああ…もっと男たちも、仕事でいろんなカラーを着こなしてもいいと思ってな」
「HASUMIができてからは、本当にビジネスマンのスーツも様変わりしてきましたよね…」
「……そう言ってもらえると、嬉しいよ」
ワインを飲んで、
「こんなに女性と話をしたのは、久しぶりかもな…」
柔らかにも笑う。
「…会長は、奥様をずっと愛していられたんですよね…」
自分もワインを口にして、
「…うん? ずっと愛していたというか、そういう機会を作っている時間がなかっただけで……」
「それは、会長が目移りもしなかったからですよ…だって、すごくもてるはずなのに……」
酔って幾分赤くなったような、その顔を見やる。
「……もてるのか? 私は……」
頬づえをついて、首を傾げる。
ほら、そういうところですって……生来の女たらしというか、なんというか。
自意識のない色男が、一番たちが悪いって、知らないんですか?