ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」

「あの絵の感じでは、たいしたことがないようには見えなかったがな……」

エスプレッソを含んで、

「……それで、さっき描いていたのを見せてもらえないか?」

促されて、

「…ああ、はい…でも本当にラフに描いただけで、見せるほどのものでも……」

と、スケッチブックを渡す。


パラパラとぺージをめくって、

「よく描けてるな…君は、絵が上手いんだな」

言うのに、

「……そんなことは……」と、下を向く。

「こんなに上手いんじゃ、仕事も忙しいのかい?」

訊かれて、

「…いえ、全く…」と、情けなくも思いながら、首を横に振る。

「……さっきも、出版社で断られてきたばっかりで……」

と、またため息が漏れる。


「…そうなのか? 私は、とてもいいと思うが…」

「うまいだけで、味がないらしいです」

編集者に言われたまんまを話すと、

「…味は、あると思うがな……」

と、まじまじと自分が描かれたイラストを眺めた。

「それは、モチーフがいいからで……」

言いかけたところへ、

「…うん?」

と、顔を上げられて、その整った顔立ちに赤面しそうにもなる。



< 5 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop