ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」

「……今日は、会社も休みだから、長野の方にでも行かないか?」

お茶を飲み終わって、会長が言い出す。

「……長野って、もしかして山道を走りたいと、思ってるんですか?」

上目遣いに、その顔を見ると、

「ああ、いいだろ?」

まるで、少年みたいな表情で見つめられた。

その顔に、断れない……と、思う。

普段が紳士な分だけ、たまのそういうのにドキッとさせられるっていうか……。

「…ああ、はい…」

根負けな感じで、頷く。

「…じゃあ、ベントレーで……」

言うのに、

「いえ、あの車じゃ峠を流すのには、大きすぎるので」

話すと、

「そうなのか…? なら、現地までは電車で行って、レンタカーでも借りるか?」

楽しそうにも喋って、本当にもう断り切れないしと感じる。


……酔った時にもそうだけど、こういうにわかに見せる全く別の顔って、どういうつもりなのかなと……。

……気持ちが惑わされて、掻き乱されちゃうのに……好きになったりしたら、本当にどうするんですか?

そんな風にも思ったら、どうしようもない切なさが、ふと胸を襲った……。


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