ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」
「……いい絵だよ」
そう口にして、スケッチブックを返されて、
「……ありがとうございます」
受け取ると、クン…と妖艶な香りがスケッチブックから漂って、
これって、ムスクの匂いだと思う。
濃い目のムスクの香りは、似合わない人が付けると嫌味にしかならないのに、この人と来たら似合いすぎだし……。
スーツの袖から時折り覗く、洒落たスワロフスキーのカフスボタンも、香りにマッチしてて素敵すぎ……。
「……君に、頼みたいことがあるんだが、いいかい?」
その姿を、思いっきり観察をしていたところへ、
急にそんな風にも言われて、
「…へっ?」
と、変な声が出て、
「……会長みたいな方が、私に何を頼むことなんて……」
コーヒーカップから、少しだけ目を上げる。
「うん、君の絵が気に入ってね。会社の広報誌にイラストを描いてもらえないかと思ったんだが、どうかな?」
「…えっ!?」
その申し出に、カップを手にしたままで凍り付く。
「…い、いやいやいや! 私のイラストなんて、そんなっ……」
カップを置き、我に返って手をぶんぶん振りたくる。