ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」

ーーワイン一杯だけだから心配ないかなとも思ってたのに、

帰りの電車の中で、蓮見会長はあっさりと眠ってしまって、肩に寄りかかってきた。

……だから、それをやめてほしいって言ったはずだったのにと思う。

洗いざらしのシャツの仄かな匂いに、ほんのりとムスクが香って、鼻腔をくすぐる。

隣どうしに座った二人掛けの座席で、何度かその身体を押し戻すけれど、

どうにも起きなくて、その香りに包まれてしまう。

……もう、私が男だったら襲ってるって……ああ、でも男が男を襲うのは違うか……って、ちょっと何考えてるんだろう。

いい加減妄想が止まらなくなりそうで、抑制が効かない。


「…ん…鈴森さん…」

「…な、なんですか?」

「…手を、握っていてもいいか?」

座席の上に置いていた手に、片手が重ねられて、

「なんで……」

戸惑い、目を落とす。

「……君の体温を感じていたい」

唐突な台詞に、真っ赤になりそうになる。

「……また、酔ってるんですか?」

「……酔ったことに、しておく……」

重ねた手が、きゅっと握られて、

「……えっ?」

と、訊ねる。


蓮見会長は、本当に眠ってしまったのか、それとも眠ってるふりなのか、目蓋を閉じていて、

「…手、熱いです…」

言うと、

「…うん」

とだけ、頷いた……。



< 66 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop