ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」
ーーワイン一杯だけだから心配ないかなとも思ってたのに、
帰りの電車の中で、蓮見会長はあっさりと眠ってしまって、肩に寄りかかってきた。
……だから、それをやめてほしいって言ったはずだったのにと思う。
洗いざらしのシャツの仄かな匂いに、ほんのりとムスクが香って、鼻腔をくすぐる。
隣どうしに座った二人掛けの座席で、何度かその身体を押し戻すけれど、
どうにも起きなくて、その香りに包まれてしまう。
……もう、私が男だったら襲ってるって……ああ、でも男が男を襲うのは違うか……って、ちょっと何考えてるんだろう。
いい加減妄想が止まらなくなりそうで、抑制が効かない。
「…ん…鈴森さん…」
「…な、なんですか?」
「…手を、握っていてもいいか?」
座席の上に置いていた手に、片手が重ねられて、
「なんで……」
戸惑い、目を落とす。
「……君の体温を感じていたい」
唐突な台詞に、真っ赤になりそうになる。
「……また、酔ってるんですか?」
「……酔ったことに、しておく……」
重ねた手が、きゅっと握られて、
「……えっ?」
と、訊ねる。
蓮見会長は、本当に眠ってしまったのか、それとも眠ってるふりなのか、目蓋を閉じていて、
「…手、熱いです…」
言うと、
「…うん」
とだけ、頷いた……。