ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」

ーー駅に降りたのはいいけど、蓮見会長は眠たげなままで、タクシーで帰ることにする。

いっしょに乗って、家の前まで送って、自分はそのままタクシーで帰ろうとしたら、

「降りなさい」と、手を引かれた。

「でも、もう帰ろうと……」

言うのに、カードでタクシー代を払ってしまう。

タクシーが走り去って、呆然と見送ってもいると、

「……今日は、ありがとう。楽しかったよ……」

と、突然に抱きすくめられた。

「あの……」

言葉に詰まるのに、

「……無理に降ろして、悪かった…」

腕の中に深く包み込んで、

肩越しに、低く言う。

「……いいですけど…」

抱かれたまま、どう反応したらいいのかもわからなくて、棒立ちになるのに、

「……もう少し、君といたかったんだ……」

切なげな声が、吐息とともに首筋を撫でて、

「……どうして……」

それしか言葉が出てこない。思考が追いつかない。



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