栄冠は君に……
しあい Ryu
いつもではない。あの子がいるのは。
たまに、フェンス越しに試合を見ている女の子。
初めは中学生くらいかと思っていた。
「1年生です」
そう言われた時には、ちょっと驚いた。
野球部のコーチである俺にとって、生徒は野球部のやつぐらいしか面識がない。
だからもちろん、あの子のことも知らない。
「佐山さん、この間声かけてたのって、三浦ですよね?」
「あの子、三浦って言うんや」
「知らないのに声かけたんすか?勇者っすね...」
1年の杉原遼。この秋から、正捕手。
1年夏からベンチ入り。元々のシニアでの評判もかなり良かったからな。実力もあるし。
「俺、中学同じっすよ。なんなら小学校から」
「あの子ソフト部かなんか?」
「あ〜...っと.....」
遼の歯切れが悪くなる。
不思議に思ったが、これ以上詮索するのはあの子に申し訳ない気がして、やめておいた。
「マネジ。あの子なら向いてると思ってさ。辞めなさそうやし、野球好きそうやし」
「それで声かけてたんすね。あいつ、野球めっちゃ好きですよ。高校野球とかやなくて、とにかく野球が好きで」
やっぱり。俺の目は間違っていなかったと思った。
次の試合、見に来てくれるかな。