ifの奇跡
「ハイ、どうぞ」


ブラックが飲めない彼の前には、ミルクと砂糖が少し多めの甘いコーヒーを置いた。


「ありがとう」


彼の正面に座ると、彼がカップを手に取りコーヒーを一口飲んだ。


「やっぱり君が入れてくれたコーヒーが一番美味しいよ。」


他の誰かが入れるコーヒーと比べて言っているのだろうか…

その言葉に曖昧な笑顔を返し、私も自分のカップに口を付けた。

苦い…とても苦くて甘さなんて微塵も感じないブラックのコーヒーを飲み込んだ。

やっぱりミルクだけでも入れればよかった…。



「4月から本社勤務が決まったよ。」



その言葉にカップから顔をあげると、まっすぐに私を見つめる彼と目が合った。

動揺でわずかに手が震え持っていたカップを落としそうになる。


「それで、君はどうしたい?」


彼は淡々とした口調でそう聞いた。

あなたは…私にどんな返事を期待しているの?

カップをテーブルに置き、彼の目をまっすぐに見つめて答えた。


「もちろん一緒に…行きます。」


彼の表情からは、私の答えに喜んでくれているのか残念だと思っているのかは読み取ることが出来なかった
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