ifの奇跡
温かい腕に包まれながら、安心してそう呟いた彼の声を聞いた…。

次の瞬間我に返った私はバッ‼︎と音が出そうな勢いで謝りながら彼の体から離れたけど、両手はまだ彼の胸のあたりにあって…正面に立つ彼の視線をまともに受けていた。


「え、莉…子…?」

「………」


もう誤魔化す事も出来なくて…ゆっくりと顔を上げ、彼を見た。

見る見るうちに大きく見開かれていく冬吾の目に、悲しそうな自分が写っている。


「……なんで泣いてるの?それに…どうしてここにいんの?」


彼がそう聞くのは当たり前の事で……

だけど、私も何をどう話していいのかわからなかった。

主人のキス現場を見たなんて言えるはずもなく

ただ “ ごめんなさい… ” と、何度も繰り返していた。


「もう謝罪はいいからさ…何があったか知らないけどちょっと落ち着いた方がいいんじゃないの?俺もだけど。」


そう言って私の腕を取ると、駅に向かって歩き始めた。

歩く速度は私に合わせてゆっくりなのに、腕をつかむ手には力が入っていて振りほどくことができなかった。
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