ifの奇跡
「分かった。じゃあそう言うことで。また詳しい事が決まったら君に教えるから。」


彼は残りの甘いコーヒーを飲み干すと、席を立ち部屋へと戻って行った。


私はしばらくその場で座ったまま動けなかった。

急に決まった東京への転勤。


あの人のいる東京へ……

私は…彼と一緒に行くことに決めた。


ーーー


8年前のあの時は家族の為に東京での生活も未来も捨てて地元に戻ってくるしかなかった。

だけど今はもう、ここに残らなければいけない理由なんてない。

私に決断を迷う理由は…なかった。

環境が変われば、私たちの夫婦関係も何かが変わるだろうか?

ほんの少しの期待と大きな不安が入り混じる。


いつもよりも少し長めのお風呂から上がり、髪を乾かしながら鏡の中に映っている自分を見つめる。

夜はオールインワンジェルとは別のお気に入りのメーカーの化粧品を使い、時間をかけて丁寧に肌になじませていく。


台所のシンクに置かれたコーヒーカップを洗っていると彼が部屋から出てきた。

珍しい…お茶でも飲みにきたのだろうか。

食器を洗い終わり部屋に戻るため体の向きを変えようと思った瞬間…彼に後ろから抱きしめられた。

突然のことに体がビクンと大きく跳ねた。

「…莉子」

私のうなじや首筋にキスをしながら彼が私の名前を呼び、手が服の中に入ってくる。

どうしたんだろう……急に求めてくるなんて。

「信志さんっ…」

彼に求められるまま抵抗もせず、そのままその場で私は彼を受け入れた。
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