ifの奇跡
「うちのマンション見えてきたから…。冬吾も今日は本当にありがとう。」


マンション入り口の少し手前で立ち止まり、彼に向き合いお礼を言った。

もう今日が最初で最後…にしなきゃいけない。

友達にも戻れない私たち。

彼の隣にいていいのはもう…私じゃない。

私は自分からその安心できる居場所を手放したのだから…。

心の中にある口に出せない想いは胸の奥に秘め、心配をかけないように笑顔を見せた。


「じゃあ…冬吾も元気でね。」


そう言って背中を向けた私に後ろから声がかかる。


「これ…何かあったら力になるから。」


振り返った私の手に、彼は名刺を握らせた。


「何かあったら次は俺を頼れって言っただろ。一人で無理すんなよ。…じゃ、行くわ、おやすみ。」


いつか言われた覚えのあるセリフを言って、私の髪を優しく撫でるとクルリと背を向け帰って行った。
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