ifの奇跡
電話と向こうからは、こっちの様子を心配している美沙の声が聞こえてきていて…後で折り返すねと言って電話を切った。

それから玄関に座ったままだった私は、立ち上がると静かに玄関のドアを開けた。


すぐに飛び込んできたのは冬吾の黒い革靴で…


「何故ここが…?」


そう聞いていた。

さっきの電話を聞かれてしまったかもしれないと思うと…声が震えた。


「コレ…落ちてたから。」


そう言って彼が差し出したのは、私の手帳だった。

しかも、引っ越したばかりで自分の家や職場の地理にまだ不安のあった私は、ご丁寧に家の住所や、家から職場までの電車の乗り換えなど細かく記載していた。


「住所は、ごめん。中に書いてあったから…。」

「こっちこそわざわざ届けてくれてありがとう…」


これ以上話して追求されるのが怖かったのに…彼は私を逃してはくれなかった。


「あと、さっきの電話のはなし悪いけど聞こえた…。」

「……」



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