ifの奇跡
玄関先の廊下に立ったまま話していたら、同じ階の住人が通り過ぎ少しだけ迷惑そうな視線を向けられた。


「うちに入る?」


もう逃げ場がないのなら、覚悟を決めるしかなかった。

冬吾を部屋に招き入れ、今は狭い部屋の中で向き合うようにテーブルを挟んで床に座っている。

コーヒーを一口飲んだ冬吾が口を開いた…。


「さっきの…俺の事が好きなのに…あの子の事黙ったままじゃ無理ってどういう事?あの子って誰の事?」


冬吾の質問に全てを答える覚悟で、私は引き出しの中からある1冊の小さな手帳を取り出した。

それを黙って彼に渡した…。


「これ…って…まさかっ…」


表紙に大きく書かれたその文字に、震える手で中をめくり始めた冬吾…。

途中から記入されることのなくなったそれを閉じると、私をまっすぐに見つめてこう言った。


「この子の事があったから?お前は一人で抱えてたのかよ…。」


悔しそうな、悲しそうなその声は私の心にも突き刺さった。

ごめんなさいとしか言えなかった私の震える肩を、彼の大きな体がそっと優しく包み込んだ。
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