ifの奇跡
冬吾に顔を見られたくないのと、自分の気持ちも一旦落ち着かせたかった。

冬吾に乱された髪の毛を手櫛で直しながら冷蔵庫の中で見つけた冬吾の好きなチョコレートの箱を持って部屋に戻ると、ちょうど深夜のお笑い番組がやっていて、あまりメジャーではない芸人さんが体を張って笑いを取っている場面だった。

それを見て楽しそうに笑う冬吾。

そんな冬吾を見てホッとした私。


「ハイ、これあげる」


不思議そうな顔をした冬吾の手のひらに、さっき見つけたチョコを一つ乗せると


「おっ!これ俺の好きなやつじゃん。さすがっ、よしよし偉いぞ莉子」


そう言ってまた犬にでもするかのように私の髪をクシャクシャと撫で回した。


「もうっ!せっかく髪直したところなのにー」

「ゴメンゴメン。だって莉子って実家で飼ってるマルに似てるんだよな」

「はぁー?マルって…やっぱり私の事、犬扱いしてたんだ」

冬吾は笑いながら私の髪を直してくれた。

「それくらい莉子は愛嬌があって可愛いって事だよ。」


ズキュン……


何…それ。そんな優しい顔してそんなセリフ言うなんて。

心臓を撃ち抜かれたかと思うくらい、冬吾の言葉に胸が大きな音を立てた。

だけどやっぱり素直になれない私は


「……あっそう…。」


愛想もクソもない返事………しかできなかった。
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