ifの奇跡
玄関の鍵を開けると外から開かれたドアの向こうに彼の姿が見えた。


「お帰りなさい…」

「…ただいま」


それ以上、会話が交わされることもなく彼はいつもの様に一旦自室に入りスーツを脱ぎ部屋着に着替えるとそのままお風呂に向かった。

彼がお風呂に入っている間に、おかずを温めなおしいつでも食べられる様に準備を始める。

残業などで遅くならない限り平日の夕飯はこうして彼と向き合いながら一緒に食べている。


一日の中で一番息の詰まる時間かもしれない…。

自分で作った料理なのに、美味しいのか美味しくないのかも分からないほどだ。

彼はおかわりをする事なく淡々と箸を進めると


“ごちそうさま”


と言って朝と同じ様に食器を下げると、洗面所で歯を磨き自分の部屋に入って行った。

取り残された私は、そこで初めてやっと息ができたかの様に大きく空気を吸い込んで箸を置く。

食器を洗い台所を後にすると、着替えを持ってお風呂に向かった。

少しぬるくなったお風呂をもう一度沸かし直し、熱めのお風呂に浸かる。

お風呂が好きな私にとって、このお風呂タイムはかなり大切な時間でリラックス出来る時間でもあった。
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