ifの奇跡
刻一刻と約束の時間が近づいてきて、私も緊張のしすぎで吐き気まで感じていた。

社会人になってからは、今日みたいに冬吾が会社の最寄り駅まで迎えにきてくれる事が何度かあった。

週末だったら決まってそのまま彼のマンションでお泊まりコースになってしまうけど、明日もまだ仕事の今日は木曜だから…どこかで晩御飯だけ食べて、バイバイだと思っていた。

駅で私を見つけた冬吾の顔が嬉しそうな笑顔に変わったのが分かる。



彼はどんな時でも私に対する感情は隠そうとはしない。

ありのままの正直な思いをぶつけてきてくれるのが冬吾だ。

電車に乗る前にどこかで食べると思ったのに…彼はブレスレットが揺れている私の左手を握ると、私がいつも利用しているホームに向かい歩き出した。


「どこに行くの?ここで食べるんじゃないの?」

「今日は久しぶりに会えたからゆっくりしたいし、莉子の駅の近くで晩御飯食べてから莉子ん家行こう。明日も仕事だと俺の家よりも莉子の家の方が都合いいだろ?」


「確かに…そうだけど。今日うちに泊まる?」

「莉子が泊めてくれるんならそのつもりで来たんだけど、…ダメ?」


いつもはグイグイ私を引っ張るタイプの俺様な冬吾が、こんな時だけは捨てられた子犬みたいなフリして……

私にダメとは言わせない彼は自分の使い分けをよ心得ていると思う。


「だめ………じゃ、ないけど。」

「じゃあ、決まり。ほら行くよ。」


そう言ってホームに滑り込んで来た快速電車に私の手を取り乗り込んだ。
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