ifの奇跡
「うん、分かってる。ありがとう。」

「本当だからな。今度こそちゃんと俺を頼れよ。莉子が辛い時は俺がお前を支えたいから、すぐに飛んでいくから。」

「うん…」


後はもう声が出なかった。


その日は、私が眠るまで冬吾がずっと腕の中で頭を撫でていてくれた。

だから、久しぶりに朝まで起きる事なく、グッスリ安心して眠ることができた。

朝、起きた時の顔はひどい顔になっていたけど…。

泣いたまま眠ってしまったせいで、両目とも瞼が腫れていた。


冷たい氷と温かい蒸しタオルを交互に瞼に当てて少しでも腫れが引くように努力した。

まあ何もしないままよりは多少はまし…になったかな!?程度だったけど後はアイメイクで誤魔化し学校に向かう冬吾とはそのまま駅のホームで別れた。

それからも毎日は同じ速度で流れていく。

長いようで短い1ヶ月が過ぎ、職場の仲間に見送られながら私は今日、会社を退職した。

もう今年もあと数日しか残っていなかった………。


送別会はもう済んでいたから、金曜の今日はいつものように冬吾が駅まで迎えに来てくれることになっていた。

大きな花束を抱え、7階から1階へとエレベーターで降りていく。

会社の受付前を通りエントランスを抜け外に出ると、会社の正面ロータリーの所に見覚えのある黒い大きな車が停まっているのが見えた。


「駅で待ち合わせじゃなかった?」

「大きな花束とか持ってるかもな…って思って一応車で来てみたんだけど、ビンゴだったな。今日までお疲れ様でした。」


隣でハンドルを握り運転をしていた冬吾が信号で止まった時に、チュッと唇が触れるだけのキスをしてきた。

もう付き合って1年以上が経つのに、こんな少しの事にもまだ私の胸は彼を想ってキュンキュンと締め付けられていく。
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