ifの奇跡
毎日仕事から帰ってから少しずつ続けていた荷造りも終わり、引っ越しも無事週末の間に済ます事ができた。

大きな荷物は引っ越し業者に任せて、実家に帰ってからの荷解きなどを手伝ってくれるために冬吾が地元まで車で送ってくれる事になった。

東京から私の地元までは遠かった…。

一応、免許は持っていた私だけど上京前に免許を取ったっきり車には乗っていなかったから…途中高速で運転を代わってあげることもできなかった。

帰りは、反対側の高速道路を冬吾は1人で東京に戻っていくんだ…。

数日後には確実に訪れる私たちの未来を思うと…胸がギュッと掴まれたように苦しくなった。


「どうした?疲れたら寝てていいよ。疲れてるだろう?」

「ううん…大丈夫。私より冬吾だって昨日ほとんど眠ってないのに…ごめんね。運転任せっきりで。」

「気にすんなよ。俺は、体力あるから大丈夫だし。莉子の方がこれから大変なんだから眠れるうちに寝ておけよ。まぁ昨日寝かせなかった俺が言うのも変だけど…。」

「あはは。確かに。今日はちゃんと寝てね。」

「どうだろ?約束は出来ねぇけど…努力はするよ。」

「……もう、またそんなことばっかり言って。明後日には冬吾1人で帰らなきゃいけないんだからちゃんと寝てくれないと私が心配するんだからね!」

「ハイハイ。だから努力はするって言ってんじゃん。」


“明後日には冬吾1人…” そのセリフに自分で言って自分で傷ついた……。

そしてその日から、私もここで1人になる……。

辛くても母の前では強くならなきゃいけないし、誰も頼れる人がいないこれからの事を考えると急に私にのしかかってきたこの現実の重さに恐怖を感じた。

これからは1人で頑張るから…今だけはあなたの腕の中で弱い自分を見せてもいい?


今夜も寝かせられるか約束はできない…なんて言っていた彼だけど、彼は一晩中私をその温かな腕の中に抱きしめ包み込んでくれていた。

誰よりも私に安心と温もりを与えてくれた、その場所を私は自分で手放したんだ…。
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