ifの奇跡
一日の最後にメイクを洗い落とし、すっぴんの素の私に戻れる時間。

一日中、特に出かけるわけでもないのに、彼が起きてくる前に完璧にメイクをする。

昔からメイクをしたりオシャレをしたりするのは大好きだった。

だけど今の私は、“彼の前でいつまでも綺麗な私でいたい” …なんてそんな女としての気持ちよりも、メイクで自分を保っているという感覚に近かった。


本当の私…弱くて過去を引きずっている私を封印する為のメイクは自分を強く見せるための武器であり、守るための鎧と同じだった。


リビングの時計を見ると、もう10時。

まだ別に眠たい時間でもないけれど、彼の部屋を通り過ぎ自分の部屋の扉を開けて中に入る。


「…………寒っ」


部屋に入った瞬間、お風呂上がりの私の体温を一気に奪っていく冷たい空気に包まれた。


「暖房入れるの忘れてた…」


急いで布団に入り体を縮こませブルブル震えながら寒さに耐えた。

すぐ隣の部屋には彼がいるのに…冷えた私の体を温めてくれるぬくもりはここにはない。

寒さで凍える体が心までもを凍らせていく。

虚しいなんて考えちゃダメ…。

考えても何も変わらないなら何も考えない方がいい。

心が疲れるだけだから。

私の日常はこんな形で一日が終わり、また数時間後には同じ一日が始まる。
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